代代代/MAYBE PERFECT
Disc 1:甲盤
01.THRO美美NG
02.1秒
03.LASE
04.まぬけ
05.破壊されてしまったオブジェ
06.黒の砂漠
Disc 2:乙盤
01.黒の砂漠
02.破壊されてしまったオブジェ
03.まぬけ
04.LASE
05.1秒
06.THRO美美NG
「SOLID CHAOS POP」を標榜する大阪発4人組アイドルグループの2/23発売の新譜について今回も書きます、ブログで何度もレビューしてるからグループの紹介については割愛しますね。
今作、CDでは曲順がそれぞれ逆になった「甲」「乙」の2枚組で曲順のほかに色々と違いがあったりするのですが曲そのものは同じなのとサブスクリプション等では「甲」のみが配信されるとのことなので「甲」のほうをいつもの通り曲ごとに感想と、最後に雑感でもつらつらと書いていこうかと思います。
いつもの通り既存の音楽ジャンルやグループ、バンド、個人等との比較や音楽の理論の話が出てくるので苦手な方はスルーしてください。
01.THRO美美NG
ワルツ風の3拍子基調に変拍子やアーメンブレイク、ブラストビートを織り交ぜた目まぐるしいリズムチェンジを繰り返すビートの上で異常に増幅されたグリッチノイズやノンダイアトニックなスケールを伴うフレージングをピロピロとさせながら暴れ狂うシンセ、ポップなメンバーの歌声とメロディが転調を繰り返しながら暴れ狂う異形のブレイクコア組曲といった趣の6分の曲。
無理やり例えるならThe Bodyのようなインダストリアル、ドゥーム/スラッジやAgoraphobic Nosebleedのようなエレクトログラインド、Focusrightsのようなマスコア、SewerslvtのようなブレイクコアからDorian ElectraやAlice Gasみたいなハイパーポップ、Frank Zappa、平沢進なんかの異なるエクストリームメタル、オルタナティブ/エクスペリメンタルジャンルの音楽を全部ミキサーにかけて代代代というグループが今まで作り上げてきた器に放り込んでミュージカル仕立てにポップにコーティングしたようなまさに「SOLID CHAOS POP」の集大成みたいな感じ。
前々作「∅ 」における"ボロノイズ"だったり前作「The Absurd〜」での"融解"といった半ばエクスペリメンタルかつミニマルな楽曲はこのグループが打ち出してきた路線ではあるけどこの曲はそれらを全てひっくり返したかのごとく組曲みたいな複雑な構成で新境地を感じると同時に手数の多い性急なビート構築は「戌戌戌」の頃への回帰も感じます。
後は歌詞についても同グループの既存曲の引用や「ナパームデスとドリームシアター」みたいなCoaltar Of The Deepers"Ribon No Kishi"の完全な引用だったりとその辺りも考えてたら面白いのかなと(そもそも曲名自体がThrobbing Gristleという大御所インダストリアルバンドの捩りの線が強い)
今年(2022年)の2/19に横浜ベイホールにて行われた先行のリリースイベントでは完全再現したライブを披露しててグループの底知れない地力を感じました。
02.1秒
公式から先行でリリックビデオも公開された曲
基本的には上記リンクから聴ける曲のような"Science Friction"辺りの初期のXTC楽曲にも通じるようなピコピコしたシンセの80's風ポストパンク/ニューウェーブの括りに入るような明るいポップな曲なのですがこの「甲」に於いてはそれが再構築されてて突如BPMを急激に落としたノイズと中近東フレーズのウワモノシンセにパーカッションが重なる凶悪なドロップパートなどが入ってきたりと色々遊んでる印象。
03.LASE
これも1番最初にリリックビデオの公開とサブスクリプションでの配信が先だって行われた曲
元々Coaltar Of The Deepersの"Aquerian Age"辺りを彷彿とさせるD'n'B要素のある曲ですが当然こちらも再構築されててビートが更に強く変則的になってたり細かくカットアップされたメンバーの歌唱がシンセ的に入ってたりラスト付近のコード進行が挿げ替えられてたりと細かい変化が見られる。
04.まぬけ
今作のポップじゃない枠
「SIX/NINE」期のBUCK-TICKを彷彿とさせるミニマルなビートの上に禍々しいウィスパーボイスを乗せたポエトリーリーディングのパートから全てを切り裂くグリッチノイズで全部ぶった切ったかと思ったら変拍子のクランチ気味に歪んだギターリフがToolのように重なったり"Pink Elephants On Parade(映画"ダンボ"収録曲)"やEnnio Morriconeの"The Strength of the Righteous(映画"アンタッチャブル"のメインテーマ)などを彷彿とさせるフィルムスコアリング感すらある低音の楽器のミニマルなフレージングがめちゃくちゃな轟音ノイズとともに現れたり今まで"凶ペ"や"清潔"などの楽曲で見せてきた無機質でエクスペリメンタルかつシアトリカルな側面に更に今までのこのグループには珍しくピッキング音の聴こえるエレクトリックギターみたいな明確な"楽器"から鳴らされる音色の有機的なフレージングを導入して音楽的にブーストした奇妙な曲で新たな可能性を感じます。
05.破壊されてしまったオブジェ
04.まぬけで高められた緊張感を一気に解き放つような代代代史上初のJ-POPでも多数用いられるⅠ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅲm→Ⅳ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅴのカノンコードを導入した00年代後半くらいの日本のギターロックバンドや正統派アイドルの雰囲気すらある最もポップな新たなアンセムになりうる楽曲。
性急なリズムからサビでの4つ打ちに移行する部分や要所で挟まるM7thのシンセのコードの終止はグループの代表曲"スティーヴンモノリス"を彷彿とさせたりと今までのポップな側面を強調させてる節が強い中1番キーの高いパートが出てきたりメンバーの歌唱力の成長に寄り添ったところが強く今のグループの根幹の強さを最大限にわかりやすくアピール出来ているのではと感じます。
雑多な音楽の要素が入り混じった今までの流れの中でも浮きかねない群を抜いてローコンテクストな曲のはずなのにアルバムのピースとしてこれ以上ないくらいの必然性を持った収まり方をしてて驚異的。
MVも本日公開されたので是非ご覧になってください、とても歌詞が良いので https://youtu.be/GKnDHUL3FIw
06.黒い砂漠
「∅ 」収録の"細胞"にも通じるような半音上昇下降のクロマチックフレーズが頻出する緊張感ありかつ寂寞とした歌モノのエレクトロニカ、ノイズ曲。
ラストに突然オーケストラの如く爆発するブレイクビーツとシンセフレーズは音色とコードが同じ「戌戌戌」の"神ングスーン"からの引用箇所もあって再び代代代というグループの原点に回帰するイメージを想起させる感じさえします。
・構成について
このアルバム、1曲単位で空白を用いてリズムやアレンジそのものをガラッと変えた1トラックで2曲あるようだったり前曲と地続きの音が鳴ってそのまま次の曲に移るなどのミュージカルあるいは組曲的な構成と曲全体で前曲のサンプリングフレーズが引用されてたり(THRO美美NGのグリッチノイズフレーズが1秒でサンプリングされてたり歌声のカットアップフレーズがLASEでサンプリングされてたり)するある種リミックスアルバム的な部分が混在した稀有な構成のアルバムなのですが、トラックは6個でも全てが1つの曲のような纏まりを見せていてある意味でコンセプトアルバムのような様相を保っています。
その裏で明確なコンセプトや主張を持たないかのような反語などを用いた正負内混ぜの感情表現が入り乱れる明確な意図を持たない歌詞(これは従来の代代代にも多く見られるもの)でそれらが4人のアイドルによって感情豊かに歌われ、共存する様は従来のエクスペリメンタルなシーンの音楽にもポップスのフィールドにも現状存在しない"アイドル"だから成し得たバランス感覚の「コンセプトの存在しない感情の発露を伴うコンセプトアルバム」というあらゆるポップスのシーンにおける新しい可能性を提示しているアルバムなのかと個人的には感じます。
・雑感
アイドル、この10年くらいで曲単体よりもグループコンセプトとして特定の年代に勃興した音楽ジャンルを標榜するグループが数え切れないくらい出てきてそれらに対する慣れ、答え合わせやノスタルジー的な消費を僕みたいなアイドルオタク兼音楽オタクというのはついしてしまいがち(それはそれで楽しい部分もあるけど)なのですがこの安直なカテゴライズを一蹴するかのようなどこまでもたくさんの音楽を糧に作られた実験的かつハイテンションでポップで前向きなアルバムを目の前にあらためて襟を正される思いを持ってしまいました。
冬も終わろうとしている時期に出たこのアルバムが今後のシーンの発展に芽吹くような影響を与えてくれるのではないかという期待すら感じさせられる怪作です。
きっと驚くかと思うのでぜひ聴いてみてください。
各種サブスクリンクはこちら
situasion/I would prefer not to
1.embryo
2.闇に関する報告書
3.樹海紀行
4.I would prefer not to
"situasionによる渋谷CLUB QUATTROで開催される2ndワンマンライブ「I would prefer no to」のタイトルとなる全4曲入り全国流通シングル。
situasionは“新たな状況”を構築するというコンセプトで結成された6人組グループ。2021年6月30日に東京・浅草花劇場で1stワンマンライブ「KAWARA GIRLS」を実施。2ndワンマンライブ「I would prefer no to」が2021年12月に東京・渋谷CLUB QUATTROで開催される。"
(HMVの商品ページよりまんま引用)
グループについては上記の通りです。
2021年は色々なジャンルで良いアルバムが本当に多くて個人的なベストがイマイチ固まらずにいる中、アイドルの音源としては(アイドルの音源以外ほぼブログ使って書くことないですが)前回書いた今年出た代代代の「The absurd〜」以来に「これについてめちゃくちゃに喋りたい!」みたいな音源なので長文打てる場所で吐き出してしまおうかと思いまして。
前回の代代代「The absurd〜」の感想
https://ass-atte.hatenablog.com/entry/2021/03/06/223631
まず曲ごとに感想書いていこうと思います。
(いつもの通り音楽の理論の話とか既存のバンド・グループとの比較がだいぶ多いのでそういうの鬱陶しいと思う人は読み飛ばして下さい。)
1.embryo
Skrillexとかみたいなブロステップが台頭する前に呼称されてたBurial辺りに代表される2-step GarageをベースにしたダブステップとClark辺りWarp周辺のIDMがくっ付いたような2分ちょっとの打ち込みインスト曲、ちょっと後半フュージョンぽい転調に差し掛かって抑制の効いたリードギターが薄ら入ってくるとこも含めて聴きごたえある感じ
2.闇に関する報告書
限界まで歪ませたベースの地を這うようなミニマルなリフの上で少なめの音数でアルペジオを奏でるギターと凶悪なまでの手数のドラムが段々と勢いを増し終盤にはフリージャズか何かみたいに暴れ倒すzeitgeist〜Hallelujah辺りのTHE NOVEMBERSやA Perfect Circle、Tool辺りのオルタナティブメタル、This HeatやKing Crimson、はたまたThese New Puritansみたいなバンドから"amo"辺りのBring Me The Horizonまでも思い起こさせるような「今までこんなグループだっけ!?」みたいな感想を抱かせるような破壊的かつ洗練されたエクスペリメンタルかつダークな曲
なのだけど所々situasionが元々「JAPANESE HORROR STORY(同年度のEP"KAWARA GIRLS"収録)」辺りに手癖として入れてたGoblinみたいなイタリアンプログレとか人間椅子、J.A.シーザーみたいな往年のプログレッシブロックで見られる"クサめ"のキメのモーダルなフレーズが瞬間的に入ってきたり、2:46あたりから3拍子でポリリズム的に重なるサイン波みたいな音は1stアルバム"debutante"の1曲目「BLOOP」で流れてるものと一致するしうっすらヴォコーダー掛かったようなメンバーの人間味を抑えた声も1stアルバム時からの曲の手癖でそういうのを意図的に組み込んでる感じもしてそういう意味での面白さもあるかなと
3.樹海紀行
メタルギター入りのDAF、Rammstein、Killing Jokeみたいなインダストリアルメタル的なビートとギターリフの刻みを4拍子+5拍子のポリリズムで組み込んだ「らんらんらん」「腹を蹴って喜び」などホラーっぽいナンセンスな歌詞が印象的な曲
これも今までないメタリックな要素を基盤に今までにあったJ.A.シーザーの曲を思い起こさせるユニゾン歌唱のキメのフレーズやEDM風のビルドアップフレーズが入ってきたりと「らしさ」上手く組み合わせた曲
4.I would prefer not to
先日先行でMVも公開された表題曲
"OK Computer"辺りのRadioheadや1st収録の「最悪な状況」を思い起こさせるサブドミナントマイナー終止のコード進行やアレンジを基盤にNothingやJesuみたいなドンシャリしたヘヴィシューゲイズ、なギターが全てを切り裂くみたいなバラード
メタリックさもあってOceansizeやDeftonesみたいな「Radioheadに強く影響受けた、或いはルーツが近似するオルタナティブメタルバンド」の様相もある感じに個人的には思ってます
ラスト転調してⅠ→Ⅵ→Ⅳ→Ⅳmにドラマティックな進行になるとこはベタながらもめちゃくちゃグッと来ます
また、メンバーの声に対するエフェクトのかかり方が薄くて上記の「最悪な状況」より強く個人の歌声を感じられるのも個人的には「聴かせたい」という意思を感じて好ましいです
余談ですが「I would prefer not to(やらない方がいい)」というタイトルの通り歌詞の中でも出だしから「本は読まない方がいい」というフレーズが出てくるのですがこの「I would prefer not to」という言葉が頻出する既存の作品として「白鯨」などを書いた作家ハーマン・メルヴィルの短編「書写人バートルビー ウォール街の物語」という作品があるそうで(自分がまだ未読なので深くは言及出来ませんが)、放送大学のHPで柴田元幸氏訳のものがPDFファイルで読めるみたいなので興味ある方は是非、自分も後で読みます
https://info.ouj.ac.jp/~gaikokugo/meisaku07/eBook/bartleby_h.pdf
総評
幕の内弁当的に色々な音楽性が入っていた1stアルバム"debutante"の楽曲群から枝を拡げるようにEDMやDnBの要素ある曲をブラッシュアップした次作"KAWARA GIRLS"、さらに次の性急なビートのある10年代邦楽ロックやそれらを経由したVOCALOID音楽やオルタナティブロック、エモが織り混ざった通称人生3部作("1988"、"from a distance"、"綺麗だ")と"anti anti roman"を経由してからまるで「こういう音楽も出来るよ」と言わんばかりにスルっと今まで微塵も見せなかったインダストリアルメタルやオルタナティブメタルみたいなNW・ポストパンク経由のヘヴィミュージックの要素をメインに据えたアレンジの目立つ楽曲群で別グループか?みたいな驚きもある中で作曲面に置いては1stアルバムや"KAWARA GIRLS"の延長線上にある「アイドルグループ、(チーム)situasion」らしい部分も強くてしっかり"situasion"というグループの「(良い意味での)違和感」を含んだ新境地を見せつけたEPなのかなと思います
今年印象的なアルバムでベストの内の一枚でもあると同時にまだ変化の余地がある"過渡期"だなと思わせる今後を期待させる意味でも良いアルバム
アイドル・オタク以外にも聴かれて欲しいアルバムです
代代代/The absurd is the essential concept and the first truth
1.不安
2.不明
3.EHM
4.ピラニア
5.死神
6.融解
7.清潔
大阪発"SOLID CHAOS POP(最近自分たちのことこう呼ばなくなりましたね)"を標榜するアイドルグループ代代代の3/6発売の全7曲入りミニアルバム、タワーレコードの紹介文にも"代代代史上最も気の触れた最狂アルバム"とのお触れ込みでデカいこと書かれたこの新譜についていつもの通り長文で色々書いていこうかなと思います。
既存の音楽との比較や音楽理論の話とか多少出てきたりするので苦手な人はスルーしてください
1曲ずつ感想書いて最後に全体の感想書きます
1.不安
冒頭からいきなりベースレスのシンプルなトラックにDeath Gripsを彷彿とさせるノイズが雷鳴のように切り込んできて後半でガバキック混じりのNine Inch Nails"Mr.Self Destruct"といった趣に2ビートで疾走するインダストリアルナンバー
Aメロで琉球音階が使われててインダストリアル+琉球音階というとBUCK-TICKっぽい感じもある
2.不明
Tim Heckerみたいなシンセメインのインストのアンビエントノイズ小曲、インタールード的にも感じるけど前々作『むだい』収録のインタールード曲の"インター流動"に比べてコードがしっかりあるからかなり音楽的でライブでどういう取り扱いになるのか気になるところ
3.EHM
1コードで不安定な非和声スケールを取りながらリフレインする図太いシンセベースのラインを繰り返しながらミニマル的にノイズ音足したり展開していくロックナンバー、バンド寄りの曲は今までにもあれどこのミドルテンポでミニマルに展開していく感じは今までの代代代では無かったタイプの曲かも
The Jesus LizardやScratch Acid、『LIGHT,SLIDE,DUMMY』あたりのMO'SOME TONEBENDERを彷彿とさせるジャンクロックぽさがあるし音作りは『4 PLUGS』のThe Mad Capsule Marketsぽさもあり90年代オルタナティブロック、メタルが好きな人はこの曲が1番ピンと来そう
4.ピラニア
既発曲の再録、再アレンジ
Radiohead"The National Anthem"を彷彿とさせる入りから溜めてブレイクコア的に爆発するファンの間でも人気な曲なのですが再アレンジでスネアの音圧増して少しBPMを落としているためよりヘヴィな印象に、メンバーの歌声が聴き取りやすくなってるのも好印象
5.死神
先行で1番最初にリリックビデオが公開された曲、ティンパニや弦楽器風のストリングスの音が多用されたともすればV系っぽさも感じるゴシカルな代代代でも異色の作風
歌詞のテーマは古典落語の『死神』がモチーフという説もあるそうで
http://sakamitisanpo.g.dgdg.jp/sinigami.html
アレンジは今までに比べて異質なのですがⅣ→Ⅲ→Ⅱ→Ⅲの逆循環風の進行自体は既発曲"血湧き肉DANCE"でも用いられてたり(作曲の小倉ヲージ氏が敬愛するCoaltar Of The Deepersの楽曲でもわりかし用いられてる)してるため1番"らしい"曲という感じもある
一定のコード進行からメインメロディのスケールを変化させて雰囲気を変えてくる作りが特徴的
6.融解
先行でMVも出た本作のリードトラック、個人的にアルバムで1番好きな曲です
Arca、Zola Jesus、Sturle Dagsland等のエクスペリメンタル寄りな電子音楽をアイドルポップスに落とし込んだといった趣で静謐なメロディにトライバルなビートやノイズが激しさを持って展開していく怪作
『むだい』の"歪んだ歪み、歪んだ歪み"や前作『∅ 』の"ボロノイズ"もそうでしたがこういう現行アンダーグラウンドシーンに通じるノイズやリズム表現を損ねずわかりやすいメロディの作曲に内包するといった手法が小倉ヲージという人のわかりやすくすごい所の一つだよなと毎度思ってます
7.清潔
ノイズに始まり半音ずつクリシェしていくメロディを繰り返すパートからノイズや4つ打ちのキックなど入れながら展開していくジャンル分けも難しいサイケデリックな音像の完全にエクスペリメンタルな曲、映画音楽っぽさもある
総評
今までの代代代と言えば「わかりやすくポップなメロディを内包したメジャーキーの楽曲」を必ず配置していて(ワールドワイドハピネス、OH HAPPY DIE...etc)そこがアルバムに置ける「救い」や「緊張に対する緩和」として機能してた部分がありましたが今作はそういった楽曲をアルバム内に一切配置せず終始インダストリアル、アンビエント、ノイズ、ジャンクロックを参照したノイジーで破壊的なサウンドでメロディの起伏も今までに比べ少なく陰鬱に終わるので"代代代史上最も気の触れた最狂アルバム"というタワレコのキャッチコピーもうなづける出来合いとなってます
その反面リズム面や用いられてる音についてロック、バンドサウンド寄りの影響を匂わせる楽曲も多くストレートなわかりやすさもあり(この辺りは小倉さんが前年度度々ツイートなどしてフェイバリットと公言してたTHE NOVEMBERS『At The Begining』やBUCK-TICK『Abracadabra』辺りのバンドサウンドとエレクトロニクスを織り交ぜた作品群の影響もあるのかなと勝手に推測してます)、前作までにあった1枚でジャンルを横断するような良く言えば多彩、悪く言えばとっ散らかった感じが無くキャッチコピーの反面アルバムとしての整合性に優れた聴きたい気分の時に一枚丸々通して聴きやすい仕上がりになってるのではないかなと思いました
バンドサウンドとエレクトロニクスの境界線を超えると言った近年のロックシーンを汲み取った内容はジャンルそれ自体が音楽の形を取らずオケのライブを想定したバンド編成ではない"アイドル"という括りと親和性が強いと思うのでそういう意味では「アイドルなのに」と言うよりはむしろ「アイドルならでは」とも言えるアルバムだし今後のアイドルシーンにおける試金石になりうるアルバムとも言えるなと個人的には思うしそれを期待できる内容だなと感じてます
幅広い音楽のファンベースに聴いてほしい1枚です
ヤなことそっとミュート/Beyond The Blue
1. 最果ての海
2. Sing It Out
3. Afterglow
4. フィラメント
5. オッド・ランド・オード
6. 結晶世界
7. D.O.A
8. Passenger
9. beyond the blue.
10. 遮塔の東
轟音清純派アイドルユニットことヤなことそっとミュート(以下ヤナミュー)、待望のメジャー1stアルバムです
思えば同グループの1stアルバム『BUBBLE』に衝撃を受けて「これは長文に起こして自分の中で消化しないと…」と思って始めたのがこのブログでして、そういう意味ではヤナミューが無ければこんな長文で音楽について書こう!なんて思っても居なかったのでそんなグループのメジャー1stともなれば感慨深いものはありますよね
いつもの通り1曲1曲書いていって最後に総評書きます(再録音源については割愛します)
"〜を彷彿とさせる〜"とかみたいな語り口嫌いな人はごめんなさい、いつもの通り多いので
1.最果ての海
Drive Like Jehuやはたまた9mm Parabellum Bulletにも通じるマイナーペンタトニックを経由するベースリフから始まりテンションコード多用のギターリフが重なる冒頭からいきなりの5拍子のノイジーでヘヴィな曲
ヤナミューでマイナーペンタトニックをここまではっきり取るリフメインの曲って実はこれが始めてなのでは?
2.Sing It Out
サビの四つ打ちとシンガロングが特徴的な2ndくらいのYou At Me Sixにも通じる感じのストレートな2010年前後くらいのエモっぽいロックナンバー、ヤナミューでも一番ユニゾンでの歌唱パートがここまで多い曲な気がする
メジャー1stシングル表題曲、ストリングスとメタリックに歪んだギターが特徴的なバラード
特にアレンジが変わったわけでもないですがアルバムで聴くとまた感じが違うように感じます
4.フィラメント
2ndシングル表題曲、3rdアルバム『ユモレスキ』収録の"Stain"の延長線上にあるような00年代J-POPに轟音ギター入れたような優しいバラードでストレート過ぎて正直最初あまり好きな曲じゃなかったのですがこれもアルバムの流れで聴くとスッと入ってくる感じがあります
5.オッド・ランド・オード
Ⅰmajのトライアドから属音だけクリシェしていく特徴的なコードのイントロから展開していく牧歌的な明るい曲、『ユモレスキ』に入っていてもおかしく無い感じ
ハーモニクスの使い方やルートからアイオニアンスケールでモードっぽく展開していく冒頭の歌メロとかはPeople In The Boxのような感じもある
6.結晶世界
9mm Parabellum BulletやCinema Staffあたりの残響レコード所属バンドのポストハードコア通過した歌謡ロックをもうちょっとCirca SurviveやDance Gavin Danceあたりのプログレ要素ありなスクリーモあたりに寄せた感じのキメのパートや高速カッティングリフが特徴的な疾走曲
これもヤナミューに珍しくハーモニックマイナーを使ったムード歌謡的な歌メロが飛び出してきたりして2010年前後にこの手のバンド聴いてた人にはたまらない作りなのではないでしょうか
7.D.O.A
ついに音源化したインディーズ時代からのライブ定番曲
作曲が畠山凌雅氏(ex.Say Hello To Sunshine)で氏がバンド在籍時からライブで披露されていた事もあってドライブ感のある00's以降のエモ・スクリーモ寄りな曲、というかCoheed And Cambriaの"A Favor House Atlantic"だと勝手に個人的に思っています(若干似ているだけで多分違う)
ちなみにD.O.Aは「Dead On Arrival」の略らしい、Fall Out Boyだ…
8.Passenger
2ndシングル『フィラメント』収録のカップリング曲、4/4のミドルテンポなドラムに作曲のJ. og氏のグルーヴィなコードカッティングと自由自在なMidwest Emo風の複雑なアルペジオや単音フレーズが乗っかるエモ曲、ラストのLUNA SEAライクなギターソロで昇天…
編集の後を感じさせないラフな一発録りっぽい感じが生々しくてとても良いです
bachoの"決意の歌"っぽさもある
9.beyond the blue.
ピアノとアナログな打ち込みのドラム音のエレクトロニカ風のパートからエモーショナルな歌謡ロックになだれ込むヤナミューでも指折りに"アイドル曲"してる曲
これも作曲はお馴染みSay Hello To SunshineのKeisuke Miyazaki氏なんですが同バンドの"Into The Blue"という曲と冒頭のコード進行が一致しているのは偶然…?
想像力がかき立てられる曲です
10.遮塔の東
エモ・オルタナティブロックのリバイバル的なイメージで語られがちのヤナミューですがラストのこの曲はエコー掛かったスネア、クリーントーンでブリッジミュートしながらの単音バッキング、シンセアルペジオ多用した80'sシティポップのような趣の冒頭からサビではまるでそれらのムードから飛び抜けるようにNothing辺りのバンドみたいなメタリックなシューゲイザーの破壊的なギターの音像を携えまるで聖歌のようなメンバーの歌声を擁するソウルフルなR&B風のロッカバラードに変貌する圧倒的に異色な曲で締めくくりに相応しい壮大かつどのバンドやSSW、アイドルにも今までに見ない組み合わせの曲、アルバムで一番個人的に好きな曲です
Taylor SwiftやPerfume Geniusあたりの2020年の新譜に入った曲に通じる所もあって"今っぽい"なと個人的に思います
この要素自体は元々既存曲の"ワンダーゲート"や"Westminster Chime"あたりでも見られてたからそれら実験の完成系とも言える出来でこのグループの今後の新しい可能性を感じさせる一曲でアルバムを締めるのは非常に好感が持てます
総評
今までがエモやスクリーモ、はたまた90'sオルタナティブロックと比較される事が多いグループでしたが今作はこのグループが2ndアルバム『MIRRORS』以降から培ってきた、或いは今までにやらなかった邦楽ロック的な表現(リズムのキメの多用、リフやメロディにおけるペンタトニックスケールの多用、四つ打ちのドラムetc)に特に富んでてメジャーらしい即効性とキャッチーさがあって広く受け入れられる快作になるんじゃないかと思います、挨拶がわりや入り口にとても最適な一枚です(逆に言えばこれはまだ"Beyond The Blue"したばかりの入り口で次のこのグループの音楽性の発展こそが誰もの度肝を抜くものと期待してあえて"傑作"とは言わないでおきます)
最後に、軽くツイートもしましたが2020年といえばコロナ禍の影響もあってかベッドルームミュージック的な音楽が増えたりしましたがそれを払拭するような愚直で前向きかつボトムのしっかりしたバンドサウンドを出してくるという点は良い意味でシーンの影響を受けない"アイドル"ならではの良さだなあと再確認しました(チームヤナミューはあくまで自分たちらしいことをやっているだけだと思いますが)
1/11日のワンマン楽しみ!
今話をしたいアルバム2
新旧問わずここ最近聴いていいな〜って思った音楽アルバム(EP含む)をまたテキトーにあげつらって総括します、なんか良さそうと思ったらみんなぜひ聴いて
Deftones『Ohms』
ついに出たぜみんな大好きDeftonesの新譜、だいたいツイッターに書き尽くした感はあるのですが案の定聴くほど良くなるスルメアルバムでした
Loathe、Sleep Waker等Nu-metalcoreと呼ばれるジャンルに意図的にDeftonesのコードワークやメロディの感覚を引用するDeftonesフォロワーが増えた今本家はそれらを知ってか知らずか独自にヘヴィかつプログレッシブに進化を遂げていってるのがずっとリスペクトされるオリジネイターたる所以ですよね
5."The Spell Of Mathematics"のジャムバンドのように盛り上がりを見せるミニマルな展開とある種テクノっぽいリズミカルさは他のメタルバンドでは聴けないのではないかと
戸川純バンド『Togawa Fiction』
"プロデューサーであるホッピー神山に加え、デニス・ガン、ナスノミツル、吉田達也、Whachoといったゴッドマウンテン周辺の凄腕ミュージシャンたちが集結した、戸川のディスコグラフィーにおいても異色の傑作!(ディスクユニオンの紹介より引用)"との事ですがまあなんとも異色の傑作です(吉田達也しか知らない)
大まかな戸川純関連(ソロ、ヤプーズ、ゲルニカ)はある程度聴いてるのですが基本的には上記って「戸川純の世界感をバックバンド或いはプログラミングで再現する」という方向性だと思うので実は毛色がどれも近しいんですが今作に関しては戸川純作曲は2."オープン・ダ・ドー"のみで他は全てバックバンドが平等に作曲してるわけなのですが、戸川純の魔女か何かを思い起こさせる変幻自在な歌唱に対してこれがまたプログレ、サイケ、メタル、ニューウェーブetcジャンルレスな音楽性を全員バカテクで個性的にやるもんだからよりスリリングに聴こえるという感じでございまして同氏のディスコグラフィーでも個性光る一枚といえるのではないでしょうか
Mr.BungleやScreaming Headless Torsos、The Dillinger Escape PlanとマイクパットンのコラボEPあたり好きな人の方が柔軟に受け入れられそう
毒島大蛇『SANA』
デーモンテープスが提案する「最後の清純派」
なーさんちゃんこと古澤サナをポップアイコンとしたソロアイドルプロジェクト。(公式ページのプロフィールからまんま引用)のその界隈のオタク待望の1stフル、発売前ですがこっそりレビュー書きます(12/9発売ですが先日のライブでCDが先行購入できた)
過去EP2作に比べてアレンジやコードの進行に80~90年代のJ-POPや邦楽ニューウェーブのノスタルジックな要素が強い中でリズムはドラムンベース基調だったり強迫の強いキックを土台にしてたり攻撃的な鳴りをしてる中で古澤サナさんの歌唱力と声の芯の強さが光る郷愁とアッパーさが同居する不思議な感覚のアルバムになってます、ポップス全般好きな人に聴いてもらいたい
個人的にはバキバキのドラムンベースなビートで疾走する3."めらん懲りー"、『SEASIDE LOVERS〜』みたいな80年代くらいのトロピカルな音楽のコンピレーションで聴けるようなAORにノイズが重なっていく終末感あるバラード4."futuristic"、『マニア・マニエラ』らへんのムーンライダーズをさらにBPM上げてポップにした高速テクノポップ"いけないRMO"(ちなみにRMOは"ルージュ・マジック・オーケストラ"の略らしい、元ネタがわかりやすい)あたりが特に好きです
Greg Puciato『Child Soldier: Creator of God』
元The Dillinger Escape Plan、現Killer Be Killedのグレッグ・プチアートが自身のレーベルFederal Prisnorからリリースした初のソロアルバム
TDEPで聴けるカオティック要素はほぼ無くバンド加入から顔を覗かせてきたインダストリアル(特にNIN)、ジャンクの要素をメインにダークウェーブからDinosaur Jr.風オルタナティブなギターロックやThe 1975風のドリーミーな80's風ポップスまで幅広く取り組んでますが散漫にならず全体的に一貫してメロディそのものがめちゃくちゃ良くVoの個性があるので飽きることなく聴けてしまう驚きのアルバム
上記バンド好きから『amo』あたりのBring Me The Horizon、Ghostemane、Depeche Modeあたり好きな人なんかにもオススメ
今話をしたいアルバム
衝動的に音楽の話がしたくなったのですがツイッターだとうっとおしくなるのでこっちに"今話したいアルバムの話"を書きます、最近聴いてるアルバムやこれもっと聴かれてもいいんじゃない?と個人的に思う何年も前に既発のアルバムとか、インディ成分が多いかも、メタルの話も多分します
その場のノリで思いついたの紹介してくのでジャンル飛び飛びですがご容赦ください
Sleigh Bells/Treats
ツイッターでも話しましたがこっちでも
歪みかかってインダストリアル風さえあるバキバキなドラムにミドルデカめに歪んだギター、ウィスパー気味な女性Voの甘いメロディが乗っかる音がバカデカいMIXのノイズポップ
このアルバムとAnimal Collective『Strawberry Jam』が僕の宅録に数年ハマるきっかけかな?と思います
ちなみに元Poison The Wellのデレクがギター作曲やってます、全然違う!
Ariel Pink's Haunted Graffiti/Scared Famous
70'sのディスコソングみたいな甘いメロディの曲のようでハチャメチャな曲展開、やたらローファイな音質、普段こういう形容はしないんですがまるで悪い夢の中で鳴らされるような音楽といった風情で唯一無二の音楽です
Vaporwaveムーブメントにも多大な影響を与えてるのでは?とたまに思います
Fear,and Loathing in Las Vegas/PHASE 2
ここでいきなりこれ?とお思いの方もいるかと思いますがこれです、邦ロックキッズ向けイメージが先行し過ぎてて音楽オタクから避けられがちですが実は多種多様なジャンルとメタルコア(エレクトロニコア)の"美味しいとこどり"を徹底したジャンルレスメタルの傑作なんです、最近まためちゃくちゃ聴いてます
MV曲多数のキャッチーでバンドらしいイメージの楽曲が揃う前半からインタールードを挟んで始まる後半のマスコア+ニューメタルに今で言うならFox Capture Planあたりに通じるピアノトリオ系のバンドの要素を違和感なくくっ付けた7."Nail the Shit Down"からどんどんおかしくなっていくので7曲目から先を皆さんに聴いていただきたい
System Of A Down『Violent Pornography』やConverge『The Saddest Day』などのオマージュ的なギターフレーズも所々顔を覗かせ始めて"この世代"のメタルオタク諸兄もぜひ聴いてもらいたい所存
後半の音源MV無いから勧めづらいのでApple Musicリンク貼ります…
https://music.apple.com/jp/album/nail-the-shit-down/1045842063?i=1045842570
小林勝行(ex.神戸薔薇尻)/神戸薔薇尻
ツイッターでオススメして貰って最近一番衝撃的な音源でした
神戸出身のMCが綴る"リアル"なメッセージの数々、トラックが音楽的に特筆することは無いのですがコンセプトやアウトローな描写と詩的な言葉選びが同居するリリック、朗々と語りかけるようなフロウは唯一無二のものです
"108 bars"を是非聴いてもらいたい
Charles Ives/Ives Plays Ives: Complete Recordings at the Piano
アメリカの現代音楽作曲家チャールズ・アイヴズ本人が自分の曲をピアノで独奏した音源集、不協和音と環境によるローファイな音質の中から覗かせる美メロがとても心地良くて結構聴いてます
ずっと気になっててサブスク見つけてからやっと聴けた音源の1つです
https://music.apple.com/jp/album/ives-plays-ives-complete-recordings-charles-ives-at/408012967
Big Walnuts Yonder/Big Walnuts Yonder
マイク・ワット(Minutemen、Dinosaur.Jr etc)、ニック・ラインハルト(Tera Melos、Bygones etc)、ネルス・クライン(Wilco、Nels Cline Singers etc)、グレッグ・ソーニア(Deerhoof)によるオルタナティブロックスーパーグループ
この手のスーパーグループ的なのって大抵中途半端になっちゃうイメージがあるのですがこれは各メンバー所属のバンドの要素がうまい具合に合わさって(特にMinutemenとTera Melosの要素強いのはありますが)唯一無二のものになってるし、何よりネルスクラインのギターの大ファンなので伸び伸び早弾きしてたりして最高でした
FAR FRANCE/AHYARANKE
日本のバンドでめちゃくちゃ好きだったのですが観る前に解散してしまったものの1つ
Thee Michel Gun Elephantと『Red』期のKing Crimsonのミッシングリンクみたいな捻くれたテンション高いキャッチーなロックンロールを絶妙なバランスでやっており非常によろしい
10年代前半ロバートフリップのトライアドフレーズを引用する日本のバンドが雨後の筍のように出てきてたけどその中でも頭一つ抜けてたなあと個人的には思います
ZOMBIE-CHANG/TAKE ME AWAY FROM TOKYO
ヤン・メイリンことZOMBIE-CHANGの新譜、80'sニューウェーブ彷彿とさせるバンドサウンドな前作からDAFとかみたいなインダストリアル・EBMやアシッドハウスにめちゃくちゃ寄ってて様変わりしてるけど基本のポップなメロディと歌詞一音一音はっきり聴き取れるストレートな歌唱はブレがなくて今回も良かったです
Iggy & The Stooges/Raw Power
言わずと知れた初期ガレージロック大名盤
イギーポップ自身がマスタリングしたバージョン(バカうるさい)サブスクにあったので聴いたらやっぱりバカうるさくて最高でした
並のメタルよりうるさい、マジで
Dijon/How Do You Feel About Getting Married?
LA在住のSSWの今年出たアルバム、James BlakeやFrank Ocean以降のリズム、Arcaらへんに通じるノイズアプローチや音響の感覚とアフリカンポップスの作曲が上手く融合した唯一無二の感じ、音に隙間があるのにめちゃくちゃキャッチー(この手の音楽ではずば抜けてひっかかるメロディ多いかも)でオススメです
James Blake、Frank Ocean、FKA Twigs、Arcaの新譜あたり好きな人はもちろん初期エモ好きやJoni Mitchellあたり好きな人も意外に聴けたりして
眠いのでひとまず今回はこちらで以上にします
何か一つでも引っかかってくれたら嬉しいです
代代代/∅
収録曲:
1. すべてが薄明の中で
2. やめさせろとめさせろ
3. 愛ね暗いね
4. 棺桶だらけかと思った
5. 細胞
6. 8 BIT GAG
7. ボロノイズ
8. OH HAPPY DIE
9. くちうつしうつくしゐ
もうこれを見てる人は大体存じているかと思いますので説明は割愛します
大阪の"SOLID CHAOS POP"を標榜するアイドルグループ代代代の5/27発売の新体制初のニューアルバムですが先行販売のフィジカルが届きまして、わかってはいましたが内容があまりにも良いのでツイッターで長文細々とTLに垂れ流すよりはこっちで一回書き尽くしちゃおうと思いましてのレビューです
本日公式BASEでデータ版の販売も開始したので気になった人はぜひに
http://ass-atte.hatenablog.com/entry/2018/10/29/224325
↑前アルバム『むだい』との比較もあるので前に書いたレビューも是非、代代代知らない人もまずこっちを読むといいかもしれません
メンバーの話無しで(こっちはツイッターでやります)音楽理論の話と他音楽との比較の話が出てくるので苦手な人はごめんなさい
各曲感想
1.すべてが薄明の中で
新体制初リリース曲『すべては薄命の中で』のリテイク、リアレンジ曲です
7thのコードをバックにDビート風の打ち込みで疾走するThe Mad Capsule MarketsとかCoaltar Of The Deepersを思わせるハードコア風味のある曲
元曲と比較してブレイクダウン風パートのキックの音圧がかなり強くなっててより踊れる感じに、3拍子のパートにシンセで入ってた♭2の不穏な音が無くなったのは個人的に残念ですがここは原曲と比較という意味で楽しめるからオッケーです
2.やめさせろとめさせろ
ラテン風のリズムとシンセのきらびやかなUKガレージ感ある曲(⁉︎)、このグループにしては珍しく途中で転調も入ってたりで新鮮、最近のFriendly Firesっぽさもあるかも
作曲はサウンドプロデューサー小倉ヲージ氏の盟友545London氏によるものみたいです
3.愛ね暗いね
Underworldの"Born Slippy"を思わせるような四つ打ちキックのハウス風の入りやブレイク一歩手前のタム回しのパートからグリッチ全開のブレイクコアに流れるわかりやすいカタルシスのある曲
打ち込み音楽の引用に留まらず2つ目のサビでリズムパターンをスピードメタル風に置き換えたり(過去にも"スティーヴンモノリス"でやってる)しっかり過去を踏襲しててオタク的にはニンマリするやつですね
歌メロもめちゃくちゃにキャッチーでシングルカットされるならコレって曲です
4.棺桶だらけかと思った
ハードコアテクノというよりはPercとかI Hate Modelsみたいなハードテクノ風の音のキックが鳴る高速BPMのリズム上にニューレイヴみたいなギラギラのシンセアルペジオが乗っかるパーティチューンなんですが歌メロにがっつりホールトーンとか非和声音で構成されたスケールが入っててどこか不穏さもある曲
歌詞がめちゃくちゃ秀逸で「諦めないと胸に誓った」など歌詞がこのグループにしては有り得ないくらいポジティブなワードがひたすら「棺桶だらけかと思った」という不穏なフレーズに挟まれる独特のセンスが好きですね
5.細胞
懐かしい風味のシンセとグリッチノイズの上にメンバーの歌が乗っかる小曲、ダンスミュージック寄りだった前半から様変わりする前のインタールード的な感じもあります
6.8 BIT GAG
既発曲『8 BEAT GANG』のリテイク、リアレンジ曲(音源はライブ特典のみなので比較したい人はライブ映像などで探してみてください)
Nine Inch Nailsの"Wish"のオマージュっぽいものも入ってたインダストリアルメタル直球の原曲に比べてガレージロック風のラフな音でフレーズもニューメタル風リフ、NWOBHMみたいなツインリード、ドラムソロが入ってて打ち込みのダンスミュージック風の楽曲が多かったアルバム前半から一気に様変わりした感じに
個人的にはHorse The Bandみたいなニンテンドーコアっぽさも感じてます
7.ボロノイズ
先行試聴で多くのオタクを驚かせた13分強の長尺曲
一定のキック、祭り囃子みたいなタム回しのミニマルな6/4→7/4拍子のビートの上に"誰か"に対する呪詛を延々とヨナ抜き音階のリフレインで歌われるボーカルやドローン音楽のような趣の歪んだパワーコードのギターリフやサイケデリックトランスみたいなシンセアルペジオ、新しいNeu!とかにも通じる生音風の一定のドラムパターンなどがどんどん足し引きされて延々と繰り返されて彼岸の彼方に向かっていくような呪術的な曲、なのにどこかキャッチーなので普通に聴けてしまうという
特に後半の歌が重なっていくところ基本的にはBPM160の6/4(3/4)なんですが(多分)歌の強拍が表にめちゃくちゃ食い気味で入ってて結果BPM100の4/4にも聴こえてしまうというポリリズム風の様相まで飛び出してきます(Twitterにも書きましたが)
Einstürzende Neubautenなどのインダストリアルからジャーマンプログレ、Tool、今年新譜の出たOranssi Pazuzuのサイケ、プログレメタルにも通じる完全にアンダーグラウンドな音楽がまさかアイドル"ポップス"から出てくるとは誰も思わなかったと思います、すごいぜ
8.OH HAPPY DIE
小倉ヲージ氏の元々やってたバンドDRINKPEDのカバーらしいです
ボロノイズの暗黒とは打って変わってどキャッチーなニューレイブテイストのある楽しい曲
歌詞に「ダモ鈴木だもん」というフレーズがあって笑ってしまった(CANのボーカル)
9.くちうつしうつくしゐ
MVも出た前体制『くちうつしうつくしい』のリテイク、リアレンジ曲
この『くちうつしうつくしい』という曲については個人的に曲以外の思い入れも強くて最初はどういうアレンジになるか期待と不安が半々だったのですが見事です
7/4のリズム上でマスロックやプログレ、フリージャズっぽさも感じさせるようなつんのめった手数バキバキのドラムパターンの上にFM7→G♭M7のリフレインが乗っかり暴力的なブレイクコアのドラムパターンなども加えながらキャッチーなメロディのまま収束する宇宙っぽさすらも感じる原曲の良さを残しつつ『∅』のラストとして相応しい意味のあるアレンジに仕上がってて感動的でした
部分で言うとサビの「きらめきが一瞬で ケセラセラ 毎秒」のコード進行が原曲ではⅣ→Ⅴ→Ⅲ→Ⅵ→ⅤなのがⅣ→Ⅴ→Ⅴ♯→Ⅵ→Ⅴになってるのも細かいですがラスト曲としての緊張感やカタルシスを高めるのにも繋がってて個人的にすごく好きなポイントです
総評まとめ
明確にインタールードなどを挟み全体的に音の広がりや音数も少なめだった『むだい』から一転『戌戌戌』のブレイクコア要素の復活や転調の導入など音数やメロディの起伏が圧倒的に増えてカラフルなアルバムになってます
反面リズム面やジャンルの取り入れ具合に関しては変拍子、ポリリズムを取り入れたりあらゆるジャンルを1曲で横断したり今までで1番複雑化してる印象
特に"ボロノイズ"はアイドル楽曲の一つのマイルストーンとも言える出来で令和始まって早々これがオルタナティブなジャンルを取り入れながらも基本的には"ポップス"の形を取るアイドルシーンから出てきたのは本当に新しい時代を感じますね
アイドルオタク、音楽オタクの皆様幅広く聴いて欲しい衝撃的なアルバムです
マスターピースだぜ、出雲