音楽レビュー

そんなに更新しない

situasion/I would prefer not to

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1.embryo
2.闇に関する報告書
3.樹海紀行
4.I would prefer not to
 

 

 

"situasionによる渋谷CLUB QUATTROで開催される2ndワンマンライブ「I would prefer no to」のタイトルとなる全4曲入り全国流通シングル。

situasionは“新たな状況”を構築するというコンセプトで結成された6人組グループ。2021年6月30日に東京・浅草花劇場で1stワンマンライブ「KAWARA GIRLS」を実施。2ndワンマンライブ「I would prefer no to」が2021年12月に東京・渋谷CLUB QUATTROで開催される。"

(HMVの商品ページよりまんま引用)

 

グループについては上記の通りです。

2021年は色々なジャンルで良いアルバムが本当に多くて個人的なベストがイマイチ固まらずにいる中、アイドルの音源としては(アイドルの音源以外ほぼブログ使って書くことないですが)前回書いた今年出た代代代の「The absurd〜」以来に「これについてめちゃくちゃに喋りたい!」みたいな音源なので長文打てる場所で吐き出してしまおうかと思いまして。

 

前回の代代代「The absurd〜」の感想

https://ass-atte.hatenablog.com/entry/2021/03/06/223631

 

まず曲ごとに感想書いていこうと思います。

(いつもの通り音楽の理論の話とか既存のバンド・グループとの比較がだいぶ多いのでそういうの鬱陶しいと思う人は読み飛ばして下さい。)

 

 

1.embryo

Skrillexとかみたいなブロステップが台頭する前に呼称されてたBurial辺りに代表される2-step GarageをベースにしたダブステップとClark辺りWarp周辺のIDMがくっ付いたような2分ちょっとの打ち込みインスト曲、ちょっと後半フュージョンぽい転調に差し掛かって抑制の効いたリードギターが薄ら入ってくるとこも含めて聴きごたえある感じ

 

2.闇に関する報告書

限界まで歪ませたベースの地を這うようなミニマルなリフの上で少なめの音数でアルペジオを奏でるギターと凶悪なまでの手数のドラムが段々と勢いを増し終盤にはフリージャズか何かみたいに暴れ倒すzeitgeist〜Hallelujah辺りのTHE NOVEMBERSA Perfect Circle、Tool辺りのオルタナティブメタル、This HeatKing Crimson、はたまたThese New Puritansみたいなバンドから"amo"辺りのBring Me The Horizonまでも思い起こさせるような「今までこんなグループだっけ!?」みたいな感想を抱かせるような破壊的かつ洗練されたエクスペリメンタルかつダークな曲

 

なのだけど所々situasionが元々「JAPANESE HORROR STORY(同年度のEP"KAWARA GIRLS"収録)」辺りに手癖として入れてたGoblinみたいなイタリアンプログレとか人間椅子J.A.シーザーみたいな往年のプログレッシブロックで見られる"クサめ"のキメのモーダルなフレーズが瞬間的に入ってきたり、2:46あたりから3拍子でポリリズム的に重なるサイン波みたいな音は1stアルバム"debutante"の1曲目「BLOOP」で流れてるものと一致するしうっすらヴォコーダー掛かったようなメンバーの人間味を抑えた声も1stアルバム時からの曲の手癖でそういうのを意図的に組み込んでる感じもしてそういう意味での面白さもあるかなと

 

3.樹海紀行

メタルギター入りのDAFRammsteinKilling Jokeみたいなインダストリアルメタル的なビートとギターリフの刻みを4拍子+5拍子のポリリズムで組み込んだ「らんらんらん」「腹を蹴って喜び」などホラーっぽいナンセンスな歌詞が印象的な曲

これも今までないメタリックな要素を基盤に今までにあったJ.A.シーザーの曲を思い起こさせるユニゾン歌唱のキメのフレーズやEDM風のビルドアップフレーズが入ってきたりと「らしさ」上手く組み合わせた曲

 

 

4.I would prefer not to

先日先行でMVも公開された表題曲

 

https://youtu.be/DufqWKjiqN8

 

"OK Computer"辺りのRadioheadや1st収録の「最悪な状況」を思い起こさせるサブドミナントマイナー終止のコード進行やアレンジを基盤にNothingやJesuみたいなドンシャリしたヘヴィシューゲイズ、なギターが全てを切り裂くみたいなバラード

メタリックさもあってOceansizeやDeftonesみたいな「Radioheadに強く影響受けた、或いはルーツが近似するオルタナティブメタルバンド」の様相もある感じに個人的には思ってます

ラスト転調してⅠ→Ⅵ→Ⅳ→Ⅳmにドラマティックな進行になるとこはベタながらもめちゃくちゃグッと来ます

また、メンバーの声に対するエフェクトのかかり方が薄くて上記の「最悪な状況」より強く個人の歌声を感じられるのも個人的には「聴かせたい」という意思を感じて好ましいです

 

 

余談ですが「I would prefer not to(やらない方がいい)」というタイトルの通り歌詞の中でも出だしから「本は読まない方がいい」というフレーズが出てくるのですがこの「I would prefer not to」という言葉が頻出する既存の作品として「白鯨」などを書いた作家ハーマン・メルヴィルの短編「書写人バートルビー ウォール街の物語」という作品があるそうで(自分がまだ未読なので深くは言及出来ませんが)、放送大学のHPで柴田元幸氏訳のものがPDFファイルで読めるみたいなので興味ある方は是非、自分も後で読みます

https://info.ouj.ac.jp/~gaikokugo/meisaku07/eBook/bartleby_h.pdf

 

 

総評

 

幕の内弁当的に色々な音楽性が入っていた1stアルバム"debutante"の楽曲群から枝を拡げるようにEDMやDnBの要素ある曲をブラッシュアップした次作"KAWARA GIRLS"、さらに次の性急なビートのある10年代邦楽ロックやそれらを経由したVOCALOID音楽やオルタナティブロック、エモが織り混ざった通称人生3部作("1988"、"from a distance"、"綺麗だ")と"anti anti roman"を経由してからまるで「こういう音楽も出来るよ」と言わんばかりにスルっと今まで微塵も見せなかったインダストリアルメタルやオルタナティブメタルみたいなNW・ポストパンク経由のヘヴィミュージックの要素をメインに据えたアレンジの目立つ楽曲群で別グループか?みたいな驚きもある中で作曲面に置いては1stアルバムや"KAWARA GIRLS"の延長線上にある「アイドルグループ、(チーム)situasion」らしい部分も強くてしっかり"situasion"というグループの「(良い意味での)違和感」を含んだ新境地を見せつけたEPなのかなと思います

 

今年印象的なアルバムでベストの内の一枚でもあると同時にまだ変化の余地がある"過渡期"だなと思わせる今後を期待させる意味でも良いアルバム

アイドル・オタク以外にも聴かれて欲しいアルバムです