音楽レビュー

そんなに更新しない

代代代/MAYBE PERFECT

f:id:ass_atte:20220222215751j:image

 

Disc 1:甲盤
01.THRO美美NG
02.1秒
03.LASE
04.まぬけ
05.破壊されてしまったオブジェ
06.黒の砂漠

Disc 2:乙盤
01.黒の砂漠
02.破壊されてしまったオブジェ
03.まぬけ
04.LASE
05.1秒
06.THRO美美NG

 

 

「SOLID CHAOS POP」を標榜する大阪発4人組アイドルグループの2/23発売の新譜について今回も書きます、ブログで何度もレビューしてるからグループの紹介については割愛しますね。

 

 

今作、CDでは曲順がそれぞれ逆になった「甲」「乙」の2枚組で曲順のほかに色々と違いがあったりするのですが曲そのものは同じなのとサブスクリプション等では「甲」のみが配信されるとのことなので「甲」のほうをいつもの通り曲ごとに感想と、最後に雑感でもつらつらと書いていこうかと思います。

いつもの通り既存の音楽ジャンルやグループ、バンド、個人等との比較や音楽の理論の話が出てくるので苦手な方はスルーしてください。

 

 

01.THRO美美NG

 

ワルツ風の3拍子基調に変拍子やアーメンブレイク、ブラストビートを織り交ぜた目まぐるしいリズムチェンジを繰り返すビートの上で異常に増幅されたグリッチノイズやノンダイアトニックなスケールを伴うフレージングをピロピロとさせながら暴れ狂うシンセ、ポップなメンバーの歌声とメロディが転調を繰り返しながら暴れ狂う異形のブレイクコア組曲といった趣の6分の曲。

無理やり例えるならThe Bodyのようなインダストリアル、ドゥーム/スラッジやAgoraphobic Nosebleedのようなエレクトログラインド、Focusrightsのようなマスコア、SewerslvtのようなブレイクコアからDorian ElectraやAlice Gasみたいなハイパーポップ、Frank Zappa平沢進なんかの異なるエクストリームメタル、オルタナティブ/エクスペリメンタルジャンルの音楽を全部ミキサーにかけて代代代というグループが今まで作り上げてきた器に放り込んでミュージカル仕立てにポップにコーティングしたようなまさに「SOLID CHAOS POP」の集大成みたいな感じ。

 

前々作「∅ 」における"ボロノイズ"だったり前作「The Absurd〜」での"融解"といった半ばエクスペリメンタルかつミニマルな楽曲はこのグループが打ち出してきた路線ではあるけどこの曲はそれらを全てひっくり返したかのごとく組曲みたいな複雑な構成で新境地を感じると同時に手数の多い性急なビート構築は「戌戌戌」の頃への回帰も感じます。

 

後は歌詞についても同グループの既存曲の引用や「ナパームデスとドリームシアター」みたいなCoaltar Of The Deepers"Ribon No Kishi"の完全な引用だったりとその辺りも考えてたら面白いのかなと(そもそも曲名自体がThrobbing Gristleという大御所インダストリアルバンドの捩りの線が強い)

 

今年(2022年)の2/19に横浜ベイホールにて行われた先行のリリースイベントでは完全再現したライブを披露しててグループの底知れない地力を感じました。

 

 

02.1秒

公式から先行でリリックビデオも公開された曲

https://youtu.be/1McsTPKr6-4

 

基本的には上記リンクから聴ける曲のような"Science Friction"辺りの初期のXTC楽曲にも通じるようなピコピコしたシンセの80's風ポストパンク/ニューウェーブの括りに入るような明るいポップな曲なのですがこの「甲」に於いてはそれが再構築されてて突如BPMを急激に落としたノイズと中近東フレーズのウワモノシンセにパーカッションが重なる凶悪なドロップパートなどが入ってきたりと色々遊んでる印象。

 

 

03.LASE

これも1番最初にリリックビデオの公開とサブスクリプションでの配信が先だって行われた曲

https://youtu.be/P9uL4JPU0rQ

 

元々Coaltar Of The Deepersの"Aquerian Age"辺りを彷彿とさせるD'n'B要素のある曲ですが当然こちらも再構築されててビートが更に強く変則的になってたり細かくカットアップされたメンバーの歌唱がシンセ的に入ってたりラスト付近のコード進行が挿げ替えられてたりと細かい変化が見られる。

 

 

04.まぬけ

今作のポップじゃない枠

「SIX/NINE」期のBUCK-TICKを彷彿とさせるミニマルなビートの上に禍々しいウィスパーボイスを乗せたポエトリーリーディングのパートから全てを切り裂くグリッチノイズで全部ぶった切ったかと思ったら変拍子のクランチ気味に歪んだギターリフがToolのように重なったり"Pink Elephants On Parade(映画"ダンボ"収録曲)"やEnnio Morriconeの"The Strength of the Righteous(映画"アンタッチャブル"のメインテーマ)などを彷彿とさせるフィルムスコアリング感すらある低音の楽器のミニマルなフレージングがめちゃくちゃな轟音ノイズとともに現れたり今まで"凶ペ"や"清潔"などの楽曲で見せてきた無機質でエクスペリメンタルかつシアトリカルな側面に更に今までのこのグループには珍しくピッキング音の聴こえるエレクトリックギターみたいな明確な"楽器"から鳴らされる音色の有機的なフレージングを導入して音楽的にブーストした奇妙な曲で新たな可能性を感じます。

 

 

05.破壊されてしまったオブジェ

04.まぬけで高められた緊張感を一気に解き放つような代代代史上初のJ-POPでも多数用いられるⅠ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅲm→Ⅳ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅴのカノンコードを導入した00年代後半くらいの日本のギターロックバンドや正統派アイドルの雰囲気すらある最もポップな新たなアンセムになりうる楽曲。

性急なリズムからサビでの4つ打ちに移行する部分や要所で挟まるM7thのシンセのコードの終止はグループの代表曲"スティーヴンモノリス"を彷彿とさせたりと今までのポップな側面を強調させてる節が強い中1番キーの高いパートが出てきたりメンバーの歌唱力の成長に寄り添ったところが強く今のグループの根幹の強さを最大限にわかりやすくアピール出来ているのではと感じます。

雑多な音楽の要素が入り混じった今までの流れの中でも浮きかねない群を抜いてローコンテクストな曲のはずなのにアルバムのピースとしてこれ以上ないくらいの必然性を持った収まり方をしてて驚異的。


MVも本日公開されたので是非ご覧になってください、とても歌詞が良いので https://youtu.be/GKnDHUL3FIw

 

 

06.黒い砂漠

「∅ 」収録の"細胞"にも通じるような半音上昇下降のクロマチックフレーズが頻出する緊張感ありかつ寂寞とした歌モノのエレクトロニカ、ノイズ曲。

ラストに突然オーケストラの如く爆発するブレイクビーツとシンセフレーズは音色とコードが同じ「戌戌戌」の"神ングスーン"からの引用箇所もあって再び代代代というグループの原点に回帰するイメージを想起させる感じさえします。

 

 

 

・構成について

このアルバム、1曲単位で空白を用いてリズムやアレンジそのものをガラッと変えた1トラックで2曲あるようだったり前曲と地続きの音が鳴ってそのまま次の曲に移るなどのミュージカルあるいは組曲的な構成と曲全体で前曲のサンプリングフレーズが引用されてたり(THRO美美NGのグリッチノイズフレーズが1秒でサンプリングされてたり歌声のカットアップフレーズがLASEでサンプリングされてたり)するある種リミックスアルバム的な部分が混在した稀有な構成のアルバムなのですが、トラックは6個でも全てが1つの曲のような纏まりを見せていてある意味でコンセプトアルバムのような様相を保っています。

 

その裏で明確なコンセプトや主張を持たないかのような反語などを用いた正負内混ぜの感情表現が入り乱れる明確な意図を持たない歌詞(これは従来の代代代にも多く見られるもの)でそれらが4人のアイドルによって感情豊かに歌われ、共存する様は従来のエクスペリメンタルなシーンの音楽にもポップスのフィールドにも現状存在しない"アイドル"だから成し得たバランス感覚の「コンセプトの存在しない感情の発露を伴うコンセプトアルバム」というあらゆるポップスのシーンにおける新しい可能性を提示しているアルバムなのかと個人的には感じます。

 

 

・雑感

アイドル、この10年くらいで曲単体よりもグループコンセプトとして特定の年代に勃興した音楽ジャンルを標榜するグループが数え切れないくらい出てきてそれらに対する慣れ、答え合わせやノスタルジー的な消費を僕みたいなアイドルオタク兼音楽オタクというのはついしてしまいがち(それはそれで楽しい部分もあるけど)なのですがこの安直なカテゴライズを一蹴するかのようなどこまでもたくさんの音楽を糧に作られた実験的かつハイテンションでポップで前向きなアルバムを目の前にあらためて襟を正される思いを持ってしまいました。

冬も終わろうとしている時期に出たこのアルバムが今後のシーンの発展に芽吹くような影響を与えてくれるのではないかという期待すら感じさせられる怪作です。

 

きっと驚くかと思うのでぜひ聴いてみてください。

 

各種サブスクリンクはこちら

https://linkco.re/Atfth7yP